【障がい者コラム】脊髄損傷の再生医療とその後の生活【その1】

【障がい者コラム】脊髄損傷の再生医療とその後の生活【その1】01

障がい者生活のセイタロウです。
このブログのこの記事をご覧くださりありがとうございます。

私は、頚椎損傷(受傷部位:C6)四肢麻痺という比較的重度な身体障害がある手動車いすユーザー です。

幸い頭は何とか無事だった?…ので、普段は障害のある方々の支援をする某障害者生活支援センターに勤務して相談支援業務を行っておりますが、そういった日々の業務経験を積み重ねるうちに、いつしか社会保障制度や社会福祉全般に詳しくなり、気が付けば社会福祉士という資格も取得することが出来ていたのです。

そんな私セイタロウが、そういった仕事を通じて、身体、知的、精神という障害がある方々の支援をさせていただくうちに、今まで気が付かなかったような様々な世の中の仕組みのようなものに注目するようになりました。


参考
セイタロウのプロフィール障がい者生活管理人&著者セイタロウの自己紹介

それら内容についてはこの【障がい者コラム】のコーナーで徐々に紹介していこうと考えております。こういった内容に、ご興味がある方やない方にとっても、“へぇ~”と言っていただけるようなお役にたてるような内容を目指して情報発信していきたい所存でございます。

脊髄損傷者の再生医療

さて、この度この【障がい者コラム】のコーナーで取り上げるのは、『脊髄損傷の再生医療とその後の生活』についてです。

昨年2018年11月の年末に各報道機関から、脊髄損傷の再生医療について一定の有効性が認められる治療が厚生労働省の認可を得られたとのニュースが流れ、脊髄損傷当事者や関係者の間で大変な話題となりました。

この製剤は札幌医科大の本望修教授らが医療機器大手ニプロと共同開発した「ステミラック注」。患者から骨髄液を採取し、骨や血管などになる能力を持つ「間葉系幹細胞(かんようけいかんさいぼう)」を取り出す。培養して細胞製剤にした5千万~2億個の間葉系幹細胞を、負傷から1~2カ月以内に、静脈から点滴で体に入れる。間葉系幹細胞が脊髄の損傷部に自然に集まり、炎症を抑えて神経の再生を促したり神経細胞に分化したりして、修復すると説明している。

安全性や有効性を確認するため、本望教授らは2013年から医師主導の治験を実施。負傷から3~8週間目に細胞を注射し、リハビリをした患者13人中12人で、脊髄損傷の機能障害を示す尺度(ASIA分類)が1段階以上、改善した。運動や感覚が失われた完全まひから足が動かせるようになった人もいたという。

引用・リンク:脊髄損傷、患者の幹細胞で治療 「一定の有効性」承認へ

私セイタロウが頸髄損傷となった1991年は、脊髄損傷は不治の症状で、一度そのような状態となってしまったらそれ以降の人生はずっと障害を背負って暮らしていかなければならない…というのが重い現実でしたが、昨今の再生医療研究によって脊髄損傷であっても“治る”ということを夢見ることができるなんて、夢のようです(笑)

とはいうものの、まだこれはあくまでも可能性の話であり、今回の報道内容を見ても、まだ受傷初期者(脊髄損傷受傷して数か月以内の方)を対象とした治療のようなので、私のように受傷後28年も経ってしまっているようないわゆる慢性期の受傷者にしてみれば、まだまだ隣の家の芝の美しさを眺めている状態です。

ちなみに、脊髄損傷者の慢性期の方の中枢神経受傷部位には、グリア細胞というかさぶたのような細胞が覆われてしまうらしく、そのグリア細胞で覆われてしまうがために中枢神経が再生しづらい状況に拍車をかけてしまうようなのですが、昨今の再生医療に関する治療を慢性期の脊髄損傷者に施しても、そのグリア細胞が邪魔をして再生段階に至らないそうなのです。

さらに、これまでの医療では、そのグリア細胞を取り除く手法が見つかっておらず、必然的に慢性期(脊髄中枢神経受傷部位にグリア細胞で覆われてしまっている状態)の方には、再生医療の治療を施しても効果が期待できないため、グリア細胞で覆われる前の段階の初期の脊髄損傷者にしか再生医療の治療を行えないとされてきました。

医療従事者ではないので専門的な説明はできませんが、医師から聞いた話ではそのようなことをおっしゃっておりました。

しかし、今回の再生医療を研究した札幌医科大学では、今後、慢性期の脊髄損傷者に対する治療にも積極的に取り組んでいきたいとの意欲を示されており、そう遠くない将来に慢性期の脊髄損傷者にも治療の希望が見えるように、是非とも頑張っていただきたいです。

ところが、同時期に慶應義塾大学のiPS細胞研究チームのからの発表では、慢性期の脊髄損傷神経にもポジティブな効果が確認できたと報告がなされています。

慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄之教授、整形外科学教室の中村雅也教授らの研究グループは、これまで細胞移植単独では治療効果を得ることができなかった慢性期の脊髄損傷モデルマウスに対して、Notchシグナル阻害剤で前処理したヒトiPS細胞から樹立した神経幹/前駆細胞を移植することのみで、運動機能を回復・維持させることに成功しました。

これまで、本研究グループの行ったヒトiPS細胞由来神経幹/前駆細胞移植単独では、亜急性期(受傷後数週間以内)における脊髄損傷に対しては有効性が確認できた一方、慢性期の脊髄損傷に対しては有効性が確認できませんでした。また、今日にいたるまで細胞移植治療単独では機能改善が得られたという報告は世界でも極めて少なく、慢性期の損傷脊髄における細胞移植単独は効果がなく、亜急性期を逃すと神経幹細胞移植は行えない、あるいは行っても効果が得られないとされてきました。

今回、本研究グループでは、細胞間の情報の伝達経路の一つであるNotchシグナルが働かないようにして神経幹/前駆細胞を前処理すると、有意にニューロンへと分化するだけでなく、軸索の再生を促す作用もあることに着目しました。そこで、Notchシグナル阻害剤で前処理したヒトiPS細胞由来神経幹/前駆細胞を、慢性期の損傷脊髄へ移植したところ、再生や運動機能回復が困難といわれる過酷な状況においても、軸索の再生・伸長が起こり、さらに再髄鞘化も誘導することを発見しました。

引用・リンク:治療が困難とされてきた慢性期脊髄損傷治療に新たな光―細胞移植単独治療で運動機能回復

慢性期の脊髄損傷者の回復も夢ではなくなりそうですね!

大変素晴らしいニュースを立て続けに目にすることができてうれしい限りです。

私自身、長年頸髄損傷という障害とともに生活しておりましたが、これまで一生治ることなないと言われてきた障害だけに、もしも、神経再生が現実味を増してくれば、もちろんのこと嬉しさが込み上げてくるのはいうまでもありませんが、それと同時に一抹の不安も込み上げてきます。

嬉しさはわかるけど…不安!?

障がい者の生活実態をよくご存じの方や、カンの良い方なら分かるかもしれません。

それは、障がい者として長年暮らせば暮らすほど、障害者年金などの社会保障制度の恩恵を受けて生活が成り立っている方も多いと思うのですが、つまり、仮に再生医療がこのまま進み損傷した脊髄内の中枢神経が回復したとすると、場合によって障害年金受給対象から外れてしまう可能性もあり、もしもそうなったら、障害は治ってよかったけど…急に障害者から健常者になったら、社会に適応できない取り残された人間になっていた…そんな現実が待ち受けている可能性があるのです。

日頃から、障害者就労枠でバリバリ働いている方でも、障害者でなくなった場合に、これまでと同じ職場で就労できる保証はないのです。

これがいかに恐ろしいことなのか…。

真剣に考えれば考えるほど恐ろしい現実が待ち受けている可能性を秘めていますが、このテーマについてはシリーズコラムとして今後、実例を踏まえてケースバイケースでこの問題について考えてみたいと思います。

本日はひとまずこれにて。